何かに依存すること、何かにハマることは、決して意味のないことではなく、むしろそれがあるからこそ、その人を何とか支えてきているものとしてもとらえることができる。しかし、そのことが社会生活への影響を及ぼし「自分らしく生きられない」状況に陥ったとき、かかわりが必要な状態となる。アディクション(嗜癖)は、物質の依存(アルコール、薬など)と行動嗜癖(ギャンブル、ネット、ゲームなど)を包含する言葉であり、「病気」という概念にとどまらない、さまざまな依存行動があり、その社会生活への影響とともに、その行動の必要性を理解する必要がある。
2010年代以降、わが国は、アルコール健康障害対策基本法施行(2014年)、薬物使用等の罪を犯した者の刑の一部の執行猶予に関する法律(2016年)、厚生労働省の依存症対策全国拠点機関設置運営事業・依存症対策総合支援事業(2017年)、ギャンブル等依存症対策基本法(2018年)と次々と依存症対策の施策を講じている。
そのことにより治療や支援の枠組み形成が各地で取り組まれているが、一方で、いまだに治療や支援にかかわる専門職の中では「アディクションは難しい」「支援対象ではない」といった拒否感や忌避感情が根強い。そのことにより、必要な社会資源にアクセスすることが阻害されており、アディクションと向き合っていく機会を失っている。どこに相談に行ってよいかわからない、勇気を振り絞って相談に行っても、相談にも乗ってもらえない、この現状を変えていくために治療や支援を担う専門職の養成は急務である。それとともに、アディクションと生きる人の理解とその多様性を認める社会の構築も求められる。
本プログラムでは、アディクションを「病気」という一側面のとらえ方にとどまらせず、さまざまな視点からその行動の意味付けを行い、アディクションと生きる人やその家族への理解とかかわりの力量をもった専門職を養成する。そして、そのことは、多様性を認める社会へとつながっていくことを共有していくプログラムとしたい。
田中 和彦
アディクションは難しい、支援困難だ、というイメージが強いと言われます。私自身も精神科医療機関のソーシャルワーカーとして最初にアディクトと出会ったときにはそのように感じました。「当事者でもない田中にアルコール依存症がわかってたまるか!」と言われたことが私のアディクションとのかかわりの原点です。じゃあわかってやろう、理解してやろう、としてクライエントと向き合い、アルコールをやめるように叱咤激励し、ときに厳しい言葉を投げかけたり、懇願したり、なだめたり、すかしたり・・・でも当時の私のソーシャルワーカーとしてのかかわりは残念ながらうまくいきませんでした。それは私が酒をやめさせようとコントロールし、私と出会うクライエントがなぜアルコールやクスリを使う必要があるのか、彼ら彼女らにとってアディクションはどのような意味をもつものなのかを理解しようとしていなかったからです。アディクションがなぜ必要なのか、その背景にある生きづらさと、生きづらさを生み出す社会をソーシャルワークの視点からとらえ、アディクションと生きる人たちとどのようにかかわり、さまざまな思いを共有していくのかを問い続けましょう。ソーシャルワークにできることはそんなに多くないかもしれません。しかし、アディクションと生きる人とともに歩むことはできます。そんな思いを皆さんと共有できることを楽しみにしています。
以下の科目から必修項目を含む合計60時間以上を履修すること
科目名 | 開講 形態 |
時間数 (h) |
受講料 (円) |
開講日 | 開講地 | 会場 |
---|---|---|---|---|---|---|
選択精神医学からみたアディクション (注1) | T | - | 12,400 | - | - | - |
必修アディクションとソーシャルワーク | O | 11.25 | 12,400 | - | - | - |
選択ソーシャルワークの理論と方法(精神) | O | 22.5 | 24,800 | - | - | - |
選択精神障害者支援論 | O | 11.25 | 12,400 | - | - | - |
選択アディクション領域における経験を有する援助者の支援論 | O | 11.25 | 12,400 | - | - | - |
選択精神障碍者と福祉実践Ⅰ | S | 17.5 | 17,400 | 選択可5/17(土)~5/18(日) ※4月16日以降に出願の方は申込できません |
大阪 | 新大阪丸ビル別館 |
選択可10/11(土)~10/12(日) | 名古屋 | 明治安田生命名古屋ビル | ||||
選択精神障碍者と福祉実践Ⅱ | S | 17.5 | 17,400 | 選択可7/26(土)~7/27(日) ※7月1日以降に出願の方は申込できません |
大阪 | 新大阪丸ビル別館 |
選択可11/1(土)~11/2(日) | オン ライン |
Zoom | ||||
選択司法と福祉の連携とソーシャルワーク | S | 17.5 | 17,400 | 選択可9/13(土)~9/14(日) ※8月16日以降に出願の方は申込できません |
オン ライン |
Zoom |
選択可11/1(土)~11/2(日) | 東京 | ビジョンセンター東京京橋 | ||||
必修アディクションと生きる社会を考える (注2) | S | 17.5 | 27,400 | 2026/1/17(土)~1/18(日) | 名古屋 | ウインクあいち |
(注1)履修証明プログラムの時間数の合計には含みませんが、履修を推奨する科目です。
(注2)履修要件があります。履修要件については募集要項をご確認ください。クラス制開講科目となります。
※必修:必修科目、選択:選択科目
※選択可:いずれかの日程を選択して履修してください。
※開講形態 T:テキスト科目、O:オンデマンド科目(e-learning)、S:スクーリング科目
※同一科目で複数日程がある場合は、いずれかの日程を選択して履修してください。
※スクーリング受講時間:1日目 9:00〜19:40、2日目 9:00〜18:25
「アディクションと生きる社会を考える」を受講するには、以下の履修要件を満たす必要があります。
科目名 | 開講形態 | 時間数 (h) |
受講料 (円) |
受講料(入学選考料・入学金は含みません) |
---|---|---|---|---|
【必修】アディクションとソーシャルワーク | O | 11.25 | 12,400 | 77,000円 〜 154,000円 ※選択する科目によって異なります。 ※別途、科目等履修生登録料、継続料が必要となります。 |
【選択】ソーシャルワークの理論と方法(精神) | O | 22.5 | 24,800 | |
【選択】精神障害者支援論 | O | 11.25 | 12,400 | |
【選択】アディクション領域における経験を有する援助者の支援論 | O | 11.25 | 12,400 | |
【必修】アディクションと生きる社会を考える(注1) | S | 17.5 | 27,400 | |
合計 | - | 62.5 | 右記を参照 |
(注1)履修要件有、クラス制開講科目
※2024年度時点の内容となります。2025年度の内容への更新は1月上旬を予定しています。
※時間数に含みませんが履修推奨科目です。
「アディクション治療」の実態を知り、持続可能な介入方法を模索していく。
精神医学において「アディクション治療」はここ数年で革命が起きている。底つき体験が必須と言われたアルコール依存症治療にも、早期発見・早期介入の必要性が指摘されている。処方薬依存・市販薬依存の問題は、薬物依存症を司法の範疇と考えることを不可能にした。ギャンブル障害など精神医学の重箱の隅でほとんど誰も認識していなかった疾患が、IR法案によってアルコールや薬物とならぶ依存症として治療の必要性が広まった。また、これらのアディクション問題には、うつ病・統合失調症・発達障害など多くの一般精神科が対象としてきた疾患が合併することが明らかになってきた。これら「依存症/アディクション」の治療対象の変化・広がりは、今まで専門病院だけで人知れず行われていた依存症治療を、一般精神科病院でも最低限は行わざる得ないものへと変化させた。またSBIRTS(エスバーツ:Screening:飲酒スクリーニングテスト、Brief Intervention:簡易介入、Referral Treatment:専門医療機関、Self-help group自助グループ)に代表される医療機関と自助グループの連携の必要性も再度指摘されている。一方で、すべての医師・病院が革命に対応できているわけではなく、対応できるか否かは医師やPSWなど個人の動きに頼っている部分も大きい。本講義の目的は、専門病院でない精神科病院であっても、地域資源が不足している地域であっても、その場その場で持続可能なアディクションへの最低限の介入方法を自ら模索・構築できる能力を育成することにある。
アディクションからの回復とそのためのソーシャルワークについて考察を深めていく。
「何かに依存している」という言葉は、ネガティブな印象をもって語られることが多く、支援の現場においても表面的な問題の対処に苦慮し、結果として医療・保健・福祉の領域で「依存症は難しい」「依存症にはかかわりたくない」という忌避感情の強い現状がある。しかしアルコール健康障害対策基本法施行(2014年)、薬物使用等の罪を犯した者に対する刑の一部執行猶予に関する法律施行(2016年)、ギャンブル等依存症対策基本法(2018年)、精神保健福祉士養成課程の養成の在り方等に関する検討会中間報告書における依存症支援体制整備の必要性(2019年)というように、依存症対策及び依存症への支援の必要性は広がりを見せ、ソーシャルワークにおいても実践の質の向上が急務である。本講義では依存症をアルコールや薬物の物質依存にとどまらず、行動嗜癖を含んだより幅広い概念である「アディクション」ととらえ、アディクションに対するソーシャルワークの視点とアセスメント、支援の方法について講義し、アディクションからの回復と回復へのかかわりについて考察を深めていく。
●精神科医療機関(診療所)で精神保健福祉士として勤務した経験のある教員が、精神保健福祉やソーシャルワークに関する講義を行う。
精神医療、精神障害者福祉における多職種連携・多機関連携の方法と精神保健福祉士の役割について理解する。
精神障害者及び精神保健福祉の課題を持つ人に対するソーシャルワークとは何か、その課題をもつ人とその家族や周囲の人間関係、地域との関係、社会構造との関係を理解し、ソーシャルワーク実践の必要性と方法について学ぶ。さらには、地域移行・地域定着支援、精神障害にも対応した地域包括ケアシステムに資する精神保健福祉士となるために、多職種連携、多機関連携について理解を深めるとともに、ソーシャルアドミニストレーションについても理解を深めていく。精神保健福祉分野は多岐にわたり、隣接他領域でのソーシャルワークも必要性が高まっている。どのような分野でもソーシャルワークの思考に基づいた実践ができるソーシャルワーク専門職としての精神保健福祉士となるように、基盤となる理論、方法、実践の展開を連続的に理解する。
精神障害者が社会においてよりよく暮らすにあたって、その支援のあり方を学ぶ。
本講義では、精神障害者が社会において、よりよく暮らすにあたって、その支援のあり方を学ぶものである。ちなみに、2011年の障害者基本法の改正において、発達障害者が精神障害者の中に含まれることになった。そのことから、本科目で精神障害者と言う場合、発達障害者も含むものである。まず、精神障害者がいかなる社会的支援を活用することによって、等身大の暮らしが実現するかについて考える。とはいえ、「精神障害者」という用語そのものが多様な解釈がなされることから、障害による特徴や課題を提示する。また、精神障害の有無に限らず、人が生き生きと暮らすにあたって、「働く」ということが重要となるため、その関係を示しつつ、一方で、就労支援等についても実践的に迫る。さらに、社会保障制度、とりわけ経済的支援について、生活支援にからめつつ、具体の諸制度を紹介しながら、精神障害者の暮らしについて検討する。そして、精神障害者の「働く」を含めた暮らしの実際や経済的支援等を通して、生活支援とは何か、を明らかにすることが本講義の目的である。
●精神科を持つ病院や福祉施設で精神保健福祉士として勤務した経験のある教員が、精神保健福祉に関する講義を行う。
アディクションのリカバリー当事者による援助者の支援論。
アディクションからの回復においては、セルフヘルプが大きな役割を果たすと言われている。かつて治療や援助の客体(対象)でしかなかったアディクトが、セルフヘルプの関係性の中で、ある種の援助役割を獲得しながら主体的に人生を再著述していく姿はダイナミックであり、感動的である。そして、当事者性(経験)を生かした援助の仕事に就く人も多い。だが、当事者としての経験は、それだけを以って十分とは言えない。クライアントの多様性を担保するためにも、自分自身が多様性に開かれる必要がある。この講義では、リカバリー当事者が援助者として機能する際に経験する「歓び」「葛藤」「変容」について、その過程を事例で示しつつ、「学び」を通した多元的自己発展について論じる。
当事者の生の声等を通して、精神障碍者のことを理解すると共に、社会福祉実践について学ぶ。
本科目では、統合失調症を中心にして、精神障碍者のことを様々な側面から知ることを目指す。そこで、精神障碍者や家族が、これまでどのようなプロセスを辿り「いま・ここに」いるのかや、いかなる社会的背景のなかで暮らしているのかについて、着眼する。また、精神保健福祉士が、どのような魅力と可能性を有する専門職であるのかについても、第一線で活躍している者の話等を通して、理解を深めることを目指すものである。さらに、「自分が精神保健福祉士になる・精神保健福祉士を活用する」等、様々な「自分及び自分たちができること」について考える機会とする。そして、精神障碍者や家族に対する実践的な支援のあり方について学ぶことを目的とするものである。
●精神科を持つ病院や福祉施設で精神保健福祉士として勤務した経験のある教員が、精神保健福祉に関する講義を行う。
当事者、実践者、科目担当者の講義等を通して、メンタルヘルス課題におけるソーシャルワーク実践への理解を深める。
本科目は「精神障碍者と福祉実践Ⅰ」の発展科目である。「精神障碍者と福祉実践Ⅰ」では、精神障碍者の置かれている現状と課題に対する福祉的視座からの理解、そして精神保健福祉士の実践について学んできた。本科目は、さらにウイングを広げ、メンタルヘルスの課題について理解していくとともに、メンタルヘルス課題に対するソーシャルワークがどのようにあるべきかを深めていく。そのことで、メンタルヘルス課題とそれを取り巻く社会のありようを精神保健福祉の共通的な課題として言語化していくとともに、ソーシャルワークの視点を醸成していくことを目指していく。
●精神科医療機関(診療所)で精神保健福祉士として勤務した経験のある教員が、精神保健福祉やソーシャルワークに関する講義を行う。
刑事司法の理念と仕組み、罪に問われた人を支える司法と福祉の連携、ならびに、様々な立場におけるソーシャルワーク実践のあり方について学ぶ。
近年、罪に問われた高齢者、障がい者等への福祉的支援の必要性と重要性が認識され、司法と福祉の連携による支援が進められている。これに伴い、刑事司法分野等へのソーシャルワーク専門職の配置が進み、新たな領域でのソーシャルワーク実践が行われてきた。罪に問われた人たちの社会復帰を支えるには、これら司法分野のソーシャルワーカーの実践に加え、地域で活動するソーシャルワーカー、さらには、住民、保健・医療・福祉・教育等の関係機関との連携による支援が必要不可欠である。この講義では、刑事司法の理念と仕組み、罪に問われた人を支える司法と福祉の連携、ならびに、様々な立場におけるソーシャルワーク実践のあり方について、ドイツにおける取り組みも参考にしながら学ぶことを目的とする。
アディクションをもつ人と共に生きる社会のためにソーシャルワークが何をすべきかを考察する。
「アディクションをもつ人とのかかわりは難しい」と言われることが多くあるが、本当にそうなのだろうか。そうだとしたら、何が困難であり、私たちは何に困っているのか。そして本当に困っているのは誰なのだろうか。本科目はそのような問いを常に意識したい。2010年代に入ってから、アルコール健康障害対策基本法をはじめとする依存症に関する法制度が整備されつつあり、特にアルコール依存症、薬物依存症、ギャンブル等依存症を中心に依存症対策として国や都道府県レベルで取り組まれるようになってきた。しかし、いまだ治療や支援にかかわる機関や専門職の中には、アディクションへの忌避感情が根強く残っている。繰り返される「支援者から見た」不健康な行為、アディクションをもつ人の治療や支援に対する抵抗や拒否、否認の感情に向き合う支援者たちは、「私たちがかかわっても何も変わらないのではないか」という無力感にさいなまれる。本科目では、ソーシャルワークのミクロ・メゾ・マクロの視点を用い、その行動の意味を理解する視点の獲得と、かかわり、地域におけるネットワーク形成、回復者との協働、社会政策のあり方について議論していく。そしてアディクションをもつ人と共に生きる社会のためにソーシャルワークが何をすべきかを考察する。